ツーブロックと海老蔵

 

 

 3月から三ヶ月髪を伸ばし続けていた。4月から遅ればせながら大学に入り、全く知らない土地で一人暮らしを始めたので、知らない美容室に行くのが怖くて全く髪を切れないでいた。しかしあまりにも伸びきった髪で目は完全に隠れ、見た目そのまんま邦ロックバンドのボーカル。持ち前のコミュニケーション能力の低さとこの見た目で大学入学以降女子と一回しか(ベトナム人のランさん)会話していなかったのでこれは酷いと思い一念発起して髪を切りに行くことにした。

 

 友達に教えてもらった美容室は街の中央にあってガラス張り、美容師はイケメンと美女しかいない難易度ハードだったことに店前に立って始めて気づくのだが先日友達に勧められて入れたホットペーパービューティでインターネット予約(電話しなくていいのですごく楽)してしまったのでなすすべなく入ったのである。

 

 エグザイルの従姉妹みたいな女の人に鏡の前の椅子に促され、どんな髪型がいいか聞かれたので髪は短すぎない方がいいことを伝えるとそのままカット前のシャンプーが始まった。個人的にはカット前にシャンプーをする文化がある事に軽くショックを受けていたのだがそれよりもシャンプー中にも気軽に話しかけて来る、忘れかけていたお喋りな美容師の存在に驚きを隠せなかったのである。

 

 今までずっと、髪を切るのが下手でカット前にシャンプーをしなくても、同じ美容室に通い続けていたのはそこの美容師が全く喋らなかったからで、大学に入って2ヶ月女子とは一度(ベトナム人のランさん)しか、しかも互いにたどたどしい日本語で、話したことがない僕には完全に苦痛でしかなかったのだがここで無口オーラを全開にしてしまうと完璧なツーブロックの横にバリカンで剃り込みをいられかねないことを危惧してトークに挑んだのである。

 

シャンプーをしながらもエグザイルの従姉妹の地元の不良の話に花を咲かせ、ついに始まったカットの際にエグザイルの従姉妹が手に持っているのはまぎれもないバリカン=敵。しっかりとしたタメ口で「長めの髪にはツーブロックみたいに横剃った方が良いと思うんだけどどう?」と聴くのに、長めなのにツーブロックってどういうことか全く理解できないまま疑念を顔に出さず、しっかりとした敬語で「とてもいいと思います。」とはっきり伝えたばかりに無くなっていく横の髪の毛に絶望するばかりだった。

 

その後もエグザイルの従姉妹と地元の不良の話は続き、着実に髪を切られながらも、しばらくすると隣の席に髪が短めの男の人が座って美容師に「髪は海老蔵くらい短めで。」「あと、おしゃれな感じで」とまさかのおしゃれな海老蔵=おしゃれな丸坊主を要求していて驚いたりしていると僕の髪は切り終わったらしく「どう?さっぱりしたんじゃない?」と言われる。バリカンで横の毛を剃られてから鏡は見るまいとしていたのだがどんなエグザイルになっていても嫌な顔だけはしないぞと心を決めて鏡を見るとびっくり。とても良いじゃないですか。横のツーブロックには髪の毛が上からかぶさっていて表からは見えなくなっておりツーブロックなのにまさかのエグザイル0%。全体的にもイメージしていた髪型そのまんまという感じで感動してしまい喜びのあまり店内を見回してしまったのですが、横の海老蔵は完全に丸坊主になってた。全然おしゃれじゃない完全な丸坊主海老蔵100%。

 

その後も始めて眉カットをされたり、恥ずかしながら髪の毛がどストレートな僕に「君は絶対パーマかけた方がいいよ。」とヘアアイロンをかけられたりしているうちに全行程が終わったのでした。

 

女性と喋りながらシャンプーをされてバリカンで横を剃られ眉をカットされた1時間2700円。髪型も良く決まって眉も整い、地元のヤンキー事情まで知れたのでとても良い時間の使い方だったように感じた。今でも時折初夏の風に頭の横の短くなった髪をなぜながら海老蔵のことを思い出している。